マイ・フェア・ダーリン
「『恥ずかしい』って、聞いてるの牧くんだけでしょ。『好き』『俺もだよ』を延々ループしたって、誰にも迷惑かけないじゃない」

「無理無理! そんなの無理ですよ! そもそも、『好き』なんて、ちゃんと言ったこともないし……」

「はあああああ!? 言ったことない!?」

園花ちゃんは数えている途中の伝票を放り出して叫んだ。

「もう!! 何やってるのよ、優芽ちゃん!!」

桝井さんも手を叩きつけたため、変なキーを押してしまう。

「私たちの前ではあんっっっなにデレデレしてて? 本人には言わないんですか? それ、ただの公害です! 杉花粉以上に迷惑です!」

「すれ違ってから言っても遅いのよ! 好き合ってても別れちゃうことなんてざらにあるんだから!」

「桝井さーん、飯星さーん、仕事ーー」

ふたりとも課長の言葉に冷静さを取り戻して仕事に戻った。

「別に……廣瀬くんだって、めったに言わないし」

少ない分ちゃんと一回一回覚えてる。
三回です。

「牧さんはいいんです。見てればわかりますから。毎日にこにこ西永さんに話しかけてるのに、西永さんは目も合わせないですよね」

「だから、恥ずかしいんだって!」

「これは、あと半年もたないかもね」

不吉な予言に背筋がぞくっとした。
手では届かないのでバインダーで背中を掻く。

「がんばります……」

我ながら信用度の低いコメントで締めくくって、あとは仕事に埋没するふりをした。




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