マイ・フェア・ダーリン
レントゲン、視力&聴覚検査を挟んで、腹部と胸のエコー検査を終えた。
エコー検査ではジェルをベッタベタに塗られ、タオルで拭いたもののいまいちスッキリしない。
そのまま胃カメラの前処置室に入ると、ソファーに廣瀬さんが座っていた。
「お疲れ様です」
私も気持ち悪さから眉をしかめて言ったけれど、廣瀬さんも笑おうとして失敗した顔でうなずくだけだった。
「あ、もしかして麻酔ですか?」
その質問にも歪んだ笑顔を縦に振る。
胃カメラ検査は麻酔をするらしい。
最初に説明を受け、ゼリータイプの麻酔か氷タイプの麻酔か選ぶように言われて、そもそも「麻酔するほどヤバい検査なのか!」と衝撃を受けた。
初心者は氷タイプの方がかんたんだと言うので、私もそっちを選んだ。
胃カメラに関しては右も左もわからない初心者なので、何でも看護師さんの言いなりだ。
「胃カメラは逆立ちして受けていただきます」と言われても、何の抵抗もできない。
凍らせた麻酔ゼリーを口に含み、溶かしながら少しずつ服用するそうで、廣瀬さんもその麻酔服用中みたいだった。
「廣瀬さん、胃カメラはやったことあります?」
今度は首を横に振る。
「私も初めてなんですけど、かなり辛いって聞くじゃないですか。怖いですよね」
廣瀬さんはうなずいてから、口を手で抑え、
「バリウムは飲んだことありますけど、あれはあれで嫌ですよね」
と、話しにくそうにゆっくり言う。
麻酔が効いてきているらしい。
「その麻酔、おいしいですか?」
顔をしかめて、こくんと飲み下し、やはり話しにくそうに答える。
「おいしくはないけど、柑橘っぽい味はついてます。それでも少し苦いです」
「51番の方ー!」
呼ばれてソファーを立つ。
「頑張ってください」
と歪んだ笑顔で送り出してくれる廣瀬さんに、ひきつった顔でうなずいて、重い脚をカーテンの向こう側に向けた。