マイ・フェア・ダーリン
昼休みの時間帯は終わっているのに、お客さんはまだふらりと入ってくる。
それでも回転がいいせいか、うまく席が入れ替わっていく。
「廣瀬さんはよく来るんですか?」
「たまに。ひとりでも来るし、職場の人と来ることもあります」
「この回転の良さなら、お昼休みでもギリギリ来られそうですもんね」
「お待たせしましたー」
さすがの速さでラーメンはやってきた。
チャーシュー、メンマ、ナルト、ねぎ、絵に描いたような理想の中華そば。
「あ、おいしい」
レンゲでひと口スープを飲んだら、吐いた息とともに自然と言っていた。
過不足なく、いいところにちゃんと落ち着いている味だ。
シンプルゆえに空っぽの胃にも負担が少なく、飽きることなく何度でも通えそう。
しばらく無言で食べていたのだけど、視線を感じて隣を見ると、廣瀬さんが興味深げに私を見ていた。
「変わった食べ方ですね」
私はいつもレンゲにひと口分の麺を乗せ、少しスープを入れてミニラーメンを作り、そのまま口に入れるように食べている。
「ラーメン、うまく吸えないので」
「そういえば、そんなこと言ってましたね」
チマチマとミニラーメンを作り続ける私に廣瀬さんは、
「ちょっと吸ってみてください」
と依頼してきた。
「本当に吸えないですよ?」
「はい。興味あって」
仕方なく箸で麺を持ち上げ、直接口に運ぶ。
ズーーーーッ!
思い切り吸ってみたけれど、ラーメンはほんの少し上にズレた程度だ。
ズーーーーッ!
ズーーーーッ!
ズーーーーーーーー……………(酸欠)
音ばかりで麺はまったく動かないので、諦めて箸で詰め込むように口に収めた。
長く外気に触れていたせいか、かなり冷めている。
「はあーー、クラクラして味なんてわかんない」
「すみません。本当にできないんですね」
しおらしく謝罪しながらも、肩が小刻みに震えていた。
「そんなに笑うことないでしょう」
「すみません。つい」
謝りながらも笑うことは止めず、震えながらズズズッとラーメンをすすっている。
たらたら遅い私と比べて、廣瀬さんの丼は底が見え始めていた。