マイ・フェア・ダーリン
「廣瀬さんってストレス溜まらないんですか?」

間の悪さに加え、今も遅い食事に付き合わされているのに、おっとりした彼を見ていてそう思った。

「ストレスですか?」

「私とラーメン食べるの、ストレスが溜まるらしいんです」

陽菜を筆頭に、元彼や友人から四票ほど投票いただいている。

「おもしろいだけですけどねえ」

「じゃあ仕事は? 配車担当って荷主と乗務員さんとの板挟みって聞くし。仕事回しておいてなんですけど、『これ、受けたくないなー』って内容も多いので」

すでに食べ終えたらしく、お水をひと口飲んで、

「ああ、まあ、そうですね」

と、のんびり肯定する。

「いろいろ言われるんですけど、俺、都合の悪い話は聞き流すので」

「ええっ!」

問題発言に反応すると、廣瀬さんも少し慌てて訂正を入れる。

「もちろん仕事内容はちゃんと聞いてますし、安易に引き受けたりしないですよ。でも、乗務員さんのワガママって、話しを聞くだけで矛を収めてくれるケースが多いんです」

「聞いてなくても?」

「タイミングよく相づちを打つのが、昔から得意なんです」

にっこりと笑われても褒めにくい特技だ。

「さんざん『嫌だ』ってゴネられて、それでも黙って聞いていたら、『仕方ないからやってやるよ』って。今は配車もシステム化している会社もありますけど、この世界はまだまだアナログというか、人間関係第一なので、苦労することもある代わりに、助けられることもありますよ」

麺を噛みながら、深くうなずいた。
今の今「話を聞き流す」と言われても、つい話したくなってしまう雰囲気のある人なのだ。
吐き出せた満足感があれば、有益な返答が返ってこなくても気にならないかもしれない。

「カウンセラーとか向いてそうですね」

話を聞き流す能力は、有効な職業もありそうだ。

「ああ、そうかもしれません」

「コールセンターも」

「うん」

「あとは……」

「西永さん、会社から俺を追い出そうとしてます?」

困ったように廣瀬さんは言う。

「まさか! いてくれないと困ります……っていうほど接点ないけど、いてくれても構いませんよ」

「……ありがとうございます」

複雑な笑顔で、廣瀬さんは頭を掻いていた。



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