マイ・フェア・ダーリン
これだけたくさん種類があるなら、迷うことも楽しみのうちだし、やはりその辺では食べられないオリジナルの味を選ぶべきだと思うのだ。
断固!
「バニラ……なぜバニラ……」
パッションフルーツ・エレクトリックなる、パッションフルーツをベースにあれやこれや混ぜ込んだアイスを食べながら、ひたすらに白い廣瀬さんのカップに不満を向けた。
「おいしいですよ?」
「それはそうでしょうけど、あれだけあってバニラですか? コンビニでも売ってるのに?」
廣瀬さんは少し溶けた外側を丁寧にすくって口に運んでいる。
「ちゃんと選びましたよ。いろいろ見て迷っちゃって、そうしたら無性にバニラが食べたくなったんですよね」
「なーんか、廣瀬さんって感じですね」
「褒められてないことはわかりました」
パッションフルーツ・エレクトリックは甘味の中にチカチカと強弱のついた酸味があって、とてもおいしい。
初めて食べる味だった。
貧乏性の私としては、これとバニラが同じ値段だということが納得できない。
廣瀬さんも絶対びっくりすると思うんだけどなあ。
「廣瀬さん、はい。あーーーん」
ショッキングピンクと紫色の毒々しいアイスクリームをスプーンに乗せて、目の前に差し出すと、
「ええ! わっ! ああああ」
仰け反って自分のスプーンを取り落とした。
「すみません! 大丈夫ですか?」
スプーンは廣瀬さんのシャツを経由してから床に落ちた。
そのせいでシャツにバニラアイスがついている。
廣瀬さんは私から受け取ったティッシュでちょっと拭いて、
「全然目立たないし、すぐ乾きますから」
と何でもないように笑った。
「本当にすみません。ついいたずら心が。新しいスプーンもらってきますね」