マイ・フェア・ダーリン
「ちょっと強気で、ちょっと口が悪くて、ちょっと愚痴っぽくて、あんまり気遣いできないからね、下柳くん」
桝井さんの発言が本人に聞かれていないか周囲を見回すけれど、そもそも下柳のヤローの顔なんて知らない。
「大丈夫。多分いないよ」という桝井さんの言葉を信じるしかない。
「下柳くん、パチンコに負けた次の日は機嫌悪いのよ。勝つと機嫌いいから、勝つといいね」
突っ伏していたせいで変な癖がついた前髪を、園花ちゃんは払い退けた。
「機嫌悪くてもいいから、○○(自粛!!)の毛まで抜かれるほど負けたらいいのに!」
今度こそ周囲が気になり、慌てて遮る。
「午後は牧さんがいるんじゃないかな? 牧さんなら何でもやさしく『はーい。わかりました』って言ってくれるって」
結構無理難題を振っても『はーい。わかりました』と受けてくれる牧さんは、私たちにとって天竺のお経よりありがたい存在だ。
『イチマル富川店様、待機になりそうだと連絡があって……』
『はーい。わかりました』
『山内物流センター様が、パレットの返却はできないとかなんとか……』
『あらら。はーい。わかりました』
牧さんはきっと『おはようございます』『お疲れ様です』『はーい。わかりました』と言う機能しかないゼンマイ仕掛けに違いない。
「牧くんねえ、最初はあの安請け合いでトラブル起こしてたけど、最近ようやく一人前になってきたよね」
この営業所の立ち上げからいる桝井さんは、子どもの成長を見る目で従業員を見守っている。
「牧さんって、いつからここにいるんですか?」
異動してきて間もない私は、ここの営業所の事情には疎い。
「二年くらいかな? あの人、乗務員の経験ないまま配車担当にされたから、ものすごく苦労したのよ」
配車担当の多くはトラックの乗務員経験を経ているらしい。
そうでなくても、経験を積んでから配車の仕事をすることが多いのに、牧さんは人事の関係で突然放り込まれたのだそう。
桝井さんの発言が本人に聞かれていないか周囲を見回すけれど、そもそも下柳のヤローの顔なんて知らない。
「大丈夫。多分いないよ」という桝井さんの言葉を信じるしかない。
「下柳くん、パチンコに負けた次の日は機嫌悪いのよ。勝つと機嫌いいから、勝つといいね」
突っ伏していたせいで変な癖がついた前髪を、園花ちゃんは払い退けた。
「機嫌悪くてもいいから、○○(自粛!!)の毛まで抜かれるほど負けたらいいのに!」
今度こそ周囲が気になり、慌てて遮る。
「午後は牧さんがいるんじゃないかな? 牧さんなら何でもやさしく『はーい。わかりました』って言ってくれるって」
結構無理難題を振っても『はーい。わかりました』と受けてくれる牧さんは、私たちにとって天竺のお経よりありがたい存在だ。
『イチマル富川店様、待機になりそうだと連絡があって……』
『はーい。わかりました』
『山内物流センター様が、パレットの返却はできないとかなんとか……』
『あらら。はーい。わかりました』
牧さんはきっと『おはようございます』『お疲れ様です』『はーい。わかりました』と言う機能しかないゼンマイ仕掛けに違いない。
「牧くんねえ、最初はあの安請け合いでトラブル起こしてたけど、最近ようやく一人前になってきたよね」
この営業所の立ち上げからいる桝井さんは、子どもの成長を見る目で従業員を見守っている。
「牧さんって、いつからここにいるんですか?」
異動してきて間もない私は、ここの営業所の事情には疎い。
「二年くらいかな? あの人、乗務員の経験ないまま配車担当にされたから、ものすごく苦労したのよ」
配車担当の多くはトラックの乗務員経験を経ているらしい。
そうでなくても、経験を積んでから配車の仕事をすることが多いのに、牧さんは人事の関係で突然放り込まれたのだそう。