マイ・フェア・ダーリン
いろいろ悩んだ結果、ありのまま正直に話すと、
「行きましょう!」
と園花ちゃんは力強く拳をつくった。
「所詮社内の飲み会だよ? 親睦を深めるためだけの茶話会(?)だよ? 出会いとかロマンスの期待なんてできないよ?」
「それでも構いません。父親と課長の間を往復するだけの毎日に、嫌気がさしました」
「わかるーーーっ!」
同じ境遇の者同士、共感の涙を拭い合う。
胃カメラのとき後悔して、恋がしたいと思ったものの、具体的な打開策なんて思い付かないまま日々を過ごしていたところだった。
「この飲み会での出会いなんて期待できなくても、そこから出会いが広がる可能性はあるじゃないですか。父親と課長からは広がりません!」
私の中にはない論理に感心して、盛大な拍手を贈った。
最悪でも廣瀬さんはいるのだから、あの人を見ているだけで楽しめそうだし。
……というわけで、特別気合いの入っていないカットソーにパンツスタイルで、指定された居酒屋に向かった。
今回の目的は食事と、出会いに繋がる人脈作りだ。
会場は最近できたところで、こざっぱりとして小洒落た小綺麗なこぢんまりとした、それでいて小難しくなく小賢しくない女性人気の高い居酒屋だった。
仕切りが高く、それぞれのテーブルは個室感がある。
「お疲れ様でーす」
「あ、お疲れ様です。荷物はこちらのカゴに、コートはその近くにお願いします」
掘りごたつのテーブルには廣瀬さんしかいなかった。
一番端に座っているので、私はその真向かい、園花ちゃんは私の隣に座る。
先輩は「今お手洗いに行ってます」ということらしい。
仕事帰りの廣瀬さんはスーツ姿だった。
いつもはジャケットを脱いで、社名入りの作業着を羽織っているから印象が違う。
ネイビーのスーツは薄ーーくシャドーストライプが入っているけれど、ウルトラマリンブルーのネクタイも、白いシャツも無地。
着る人が着たならば、シンプルゆえにラインのうつくしさや、生地の品質が生きて素敵なんだろうと思う。
しかし、そこは廣瀬さん。
「ふふ、今日も地味だな」
多分センスは悪くないのに、まっっったくそれを感じさせない。
緊張させない人柄に安心して頬が緩んだ。
「来てくださってありがとうございます」
頭を下げる廣瀬さんに、園花ちゃんが笑顔で手を振る。
「いえいえ。とんでもない。このお店、デザートが豊富だから来てみたかったんです」
「女性受け狙った店選びしてよかったです」