マイ・フェア・ダーリン
「その前はどこの営業所だったんだろう?」
桝井さんからもらったみかんを剥きながら何気なく口にしたのだけど、彼女はあんぐりと口を開けて私を見つめていた。
「……そっか、優芽ちゃんは今年異動してきたから知らないんだ」
「へ? 何が?」
園花ちゃんに視線を向けても、桝井さんと同じような反応をしている。
「西永さん、牧さんはこの営業所で結構有名です」
真剣な表情に、みかんを剥く手も止まる。
「ユー? メイ?」
説明を求めて桝井さんを見ると、おごそかにうなずいた。
「牧くん、ここに来る前は実業団にいたの。陸上の」
陸上の実業団……私にとっては中学時代の元担任と同じ頻度でしか思い出すことのない(つまりほぼない)言葉だ。
が、続く言葉には日本人なら誰でも私と同じ反応をすると思う。
「箱根駅伝も走ってるのよ」
「箱根駅伝ーーっ!!」
中途半端に剥かれたみかんに視線を落とす。
毎年やってるのは知っている。
小さい頃年始におじいちゃんの家に行くと必ずついていて、強制的に目撃させられた(あくまで視聴ではない)。
今でもお正月番組をふらふらしてる隙間に、ひたすら走ってる男子が視界に入ることがある。
時期的なこともあり、箱根駅伝のイメージはみかんとセットになっている。
日本において、その知名度は抜群だ。
「西永さん、箱根駅伝に興味あったんですか?」
「いや、全然。園花ちゃんは?」
「うちは父が毎年見てます」
「じゃあ牧さんのことも知ってたの?」
「私は毎年初売りと初詣に出掛けて、家にはいませんから」
過去を辿る視線の先に、牧さんの姿は見えないらしい。
有名なのは牧さんではなく、箱根駅伝だけだったみたい。
「よほどの有名選手じゃないと、一般的知名度なんてないからね。私は毎年観てるけど、牧くんに会ってもわからなかったわよ」
いつの間にかみかんを食べ終えていた桝井さんが、皮をお弁当箱に詰め込んだ。
桝井さんからもらったみかんを剥きながら何気なく口にしたのだけど、彼女はあんぐりと口を開けて私を見つめていた。
「……そっか、優芽ちゃんは今年異動してきたから知らないんだ」
「へ? 何が?」
園花ちゃんに視線を向けても、桝井さんと同じような反応をしている。
「西永さん、牧さんはこの営業所で結構有名です」
真剣な表情に、みかんを剥く手も止まる。
「ユー? メイ?」
説明を求めて桝井さんを見ると、おごそかにうなずいた。
「牧くん、ここに来る前は実業団にいたの。陸上の」
陸上の実業団……私にとっては中学時代の元担任と同じ頻度でしか思い出すことのない(つまりほぼない)言葉だ。
が、続く言葉には日本人なら誰でも私と同じ反応をすると思う。
「箱根駅伝も走ってるのよ」
「箱根駅伝ーーっ!!」
中途半端に剥かれたみかんに視線を落とす。
毎年やってるのは知っている。
小さい頃年始におじいちゃんの家に行くと必ずついていて、強制的に目撃させられた(あくまで視聴ではない)。
今でもお正月番組をふらふらしてる隙間に、ひたすら走ってる男子が視界に入ることがある。
時期的なこともあり、箱根駅伝のイメージはみかんとセットになっている。
日本において、その知名度は抜群だ。
「西永さん、箱根駅伝に興味あったんですか?」
「いや、全然。園花ちゃんは?」
「うちは父が毎年見てます」
「じゃあ牧さんのことも知ってたの?」
「私は毎年初売りと初詣に出掛けて、家にはいませんから」
過去を辿る視線の先に、牧さんの姿は見えないらしい。
有名なのは牧さんではなく、箱根駅伝だけだったみたい。
「よほどの有名選手じゃないと、一般的知名度なんてないからね。私は毎年観てるけど、牧くんに会ってもわからなかったわよ」
いつの間にかみかんを食べ終えていた桝井さんが、皮をお弁当箱に詰め込んだ。