マイ・フェア・ダーリン
冷めて噛みごたえが三倍増しになった鶏つくねをガシガシ噛んでいると、下柳がこれみよがしに溜息をつく。
一度は無視したけれど、しつこく繰り返すから、仕方なく尋ねた。

「……お疲れですか?」

「配車担当って、毎日毎日気を使うからね」

私たちは毎日毎日アナタに気を使ってますけどね! と鶏つくねを噛み砕く歯にもさらなる力が入る。

「へー、大変ですね」

「事務はいいよね。電話回してればいいんだから」

「ソウデスネー。気楽ナモンデスー」

「荷主がさ、『この荷物早く持ってきて』とか言うだろ?」

「ああ、はいはい」

時間指定ではなく漠然と『早めに』と言われることはよくある。
時間指定でない限り、常にできる限り早くお届けしているのだから、そうそう早くはならないけれど。

「あれ、暗に高速使えって言ってるの。だけど明確な指定じゃないから『金は払わないよ』って」

「へー、ひどい話ですね」

「だろ? 『いつでもいいから返品の回収もお願い』ってのも、無料でって意味」

「へー、ひどい話ですね」

「そうなんだよ。いくら仕事もらう立場だからって、何でも言うこと聞いてたら大変なことになる。タダ働きなんて乗務員も納得しないから、結局俺たちが板挟み」

「へー、ひどい話ですね」

「廣瀬くんなんて、最初の頃はなんでも引き受けちゃって、俺が全部尻拭いしてやってさ。本当に大変だった」

「新人の尻拭いするのは先輩の仕事ですから当然ですね」

「……ああ、まあな。それでも廣瀬くんはひどかったよ」

「牧さんはやさしいですから」

何でも全部やってあげようとしちゃったんだろうな。
それで各方面から怒られて、すみませんすみませんって、毎日頭を下げていたんだろう。
実際に動くのは乗務員さんだから、無理させるわけに行かないけど、自分ひとりの問題だったら、何もかも抱えてしまうタイプかもしれない。
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