マイ・フェア・ダーリン
6区 風と共に走る
毎年夏になると「今年こそ、暑さで死ぬ……」と思い、毎年冬になると「今年こそ寒さで死ぬ……」と思うのだけど、毎年年末になると「今年こそ、本気で死ぬ……」と思う。
年末年始の休業に備え、加速度的に増える物量。
経験を積んでるはずなのに、いまいち学びの悪い私は、例年のごとく「今年こそ、絶対死ぬ……」と目を血走らせながら働いていた。
恋にうつつを抜かしたいのに、恋の芽を摘むほどの激務だ。
忙しいのは配車担当も同じで、この時期車を確保するのは至難の業らしい。
忙しくなってから慌てたのでは間に合わず、日頃の人脈作りや信頼関係などが影響するとも聞く。
「すみません。サイクルヒット岸田辺店様、再度追加の依頼です」
『はーい。わかりました』
絶対疲れているはずなのに、ふわふわ宙を舞うような声は変わらない。
「あの、大丈夫ですか?」
『んー。かなり厳しいですけど、閑散期に親しくしていた運送会社さんが協力してくれているので助かってます』
「仕事もそうですけど……お身体とか」
古びた電話のコードをグリングリン指に絡ませながら言うと、耳元でふっと笑う吐息の音がした。
『これでも身体は鍛えてる方なので大丈夫です。ありがとうございます』
「あ、そうですよね。いえ、でも、ちゃんと休んでくださいね。データ送りました。よろしくお願いします」
『……はい、確認しました。ありがとうございます。西永さんこそ、無理しないでくださいね』
こんなささいなやり取りを胸の内にしまっていると、課長が課員全員に聞こえる一人言を吐いた。
「“クリスマス”じゃなくて“苦シミマス”だねえ」
あらかじめ園花ちゃんから、
「毎年十二月になると、『今年こそ、くだらなさで死ぬ……』と思うんです」
と聞いてはいたけれど、学びの悪い課長はお歳暮のごときマメさで、事務課恒例だという言葉をくださった。
伝票をめくる園花ちゃんの指に殺意が芽生えたけれど、忙しさゆえに表面上は平和だ。
私とて漫然とクリスマスを過ごしていたわけではない!
廣瀬さんのクリスマスイブが遅番&残業で、深夜まで事務所にいたことは、ちゃーんと確認済み!
大丈夫、大丈夫。多分。きっと。おそらく。