マイ・フェア・ダーリン
「明けましておめでとうございまーす! お久しぶりでーす!」
箱根駅伝の往路を見終わった和紗ちゃんは、思った以上の装備で我が家にやって来た。
DVD10枚、雑誌数冊。
一枚借りればいいと思っていた私は、そのボリュームに正直引いた。
「まさか、まさか、お姉さんが湘教大に興味あるとは!」
貸してくれれば勝手に観るのに、一緒に観て感動を分かち合いたい、と半ば強制的に我が家で鑑賞会が開かれることとなった。
古くからの友人と姉相手であっても、陽菜は冷淡にも不参加だ。
今もリビングで、涙ぐみながら(感動するストーリーなんだって)敵機を爆撃している。
物のほとんどない私の部屋に、両親の部屋からテレビを移動してきて、お菓子やお茶を並べながら恐る恐る指摘する。
「なんでそんなに多いの……?」
「お姉さん、箱根駅伝って何時間あると思ってるんですか? 往復200km以上走るんですから、優勝チームでも総合タイムは11時間切る程度ですよ」
和紗ちゃんは丁寧にラベリングされたDVDを並べていく。
『スタート~1区』『2~3区』と分けられている。
「この頃はまだBlu-ray持ってなくて、DVDに分けて録画してたんです。で、事前情報もあるから往路と復路各4枚ずつ。それからこっちは、続報と翌日の情報番組に優勝チームが出演したシーンです」
『9~10区』と書かれたDVDを持ち上げて、
「9区だけ見られたらいいんだけど」
と言ってみたら、「ダメです」とキッパリ断られた。
「駅伝は流れが重要なんですから、一部分だけ見ても面白さはわかりません!」
石畳のように並んだDVDをげんなり見つめる。
「いや、でもさすがに長いよ。見終わらないって。和紗ちゃんだって、明日も朝から復路観るんでしょ?」
和紗ちゃんも明日の予定には抗えなかったようで、
「……仕方ないので、9区以外はダイジェストで許します。はああ、全部観たかったなあ」
と『情報番組』と書かれたDVDを入れた。