マイ・フェア・ダーリン
今はもう終わってしまった番組の、懐かしい司会者が画面に映る。
『それでは、箱根駅伝で見事初優勝されました湘和教養大学チームのみなさんにお越しいただいてます! みなさん、優勝おめでとうございまーす!』
『ありがとうございまーす!』
「ああ!」
前後二列の雛壇に並んで座る選手をざーっと映した中に、ひときわ地味な影があった。
が、カメラはそのまま流れて花束をもらう監督を映している。
うれしそうに心境を語る監督の後ろに、脚だけ見切れているのは、今よりずいぶん若い廣瀬さんだ。
「お姉さん、9区ってことは、牧くんのファンなんですか?」
“ファン”と言われると抵抗があるのだけど、どうせバレることなので早々に白旗を上げた。
「……そうだよ」
「まあ、地味だけど、湘教大のエースですもんね」
「やっぱり地味なんだ……」
「後輩たちが派手ですから。強豪高校のエースが集まったので。あ、始まりました」
情報番組では時間をたっぷり取って、スタートから順番に振り返りながら、選手にインタビューしていくつもりらしい。
大手町の観客の様子から始まって、たくさんの人がまだ暗いうちから寒空の下で待っている。
『今回は王者澤南大学の三連覇か。その牙城を楠島学院大学が崩せるのか。そこに注目が集まっていました。その戦いに食い込もうとする湘和教養大学、流れを決める重要な1区を任されたのは、二年生の新谷瑛輝選手です』
廣瀬さんの所属する湘和教養大学のユニフォームは、明るい藍色(“瑠璃紺”だそうだ)の上下で、脇の下からパンツの裾まで真っ直ぐ太く、淡い黄色のラインが入っている。
胸に大きく入った『S』の上に、淡い黄色地の襷が掛けられていて、そこにも瑠璃紺で『湘和教養大学』と書かれていた。
「地味なユニフォームだね」
「ええーっ! 格好いいですよう!」
普通ならシックで格好いいかもしれないけれど、廣瀬さんが着たら絶対目立たない。
きっと観客の方が派手なくらいだよ。