マイ・フェア・ダーリン
『大手町を飛び出した二十三人の選手が、一斉に芦ノ湖を目指します』

集団で始まったレースはゆっくりしたペースで進み、塊のまま走って行く。
やはり黒、紺、青系統の色が多いのだから、この赤い人みたいなユニフォームの方が目立ったのに、と思っていたら、その赤いユニフォームの人がひとりでピョーンと抜け出した。

『レースが動いたのは18km付近。澤南大の吉見選手がスパートをかけます』

そのあとにバラバラと数人続くも、どんどん引き離されていく。

「この年は澤南大一強って言われてて、出雲も全日本も圧勝してたんです。対抗できるのは楠島学院大くらいで、正直なところ、湘教大が優勝するとは誰も思ってなかったと思います」

「確かに強そうだよね。すでに風格がある感じ」

赤いユニフォームの澤南大は強さを示し、トップで襷を渡した。
まもなく湘教大も7位で2区に繋げている。

『ここは“花の2区”と呼ばれ、各校のエースが集います』

「あれ? さっき廣瀬さんがエースって言わなかった? なんで2区じゃないの?」

用意しておいたポットから、和紗ちゃんも勝手にコーヒーを淹れている。

「一番速いのは本当なら牧くんだったと思います。でも牧くんって一般入試で入った無名の選手だったから、チームでの立場って微妙だったんじゃないかと思うんです。だけど、2区と同じコースを逆走する“裏の2区”が牧くんが走った9区ですから、やっぱりエースです」

湘教大の2区を走った志田くんはこの年のキャプテンで、高校でも活躍して最初からエース候補として入学してきたのだとか。
エースがキャプテンを務めることが多い大学陸上部において、志田くんが選ばれたのは、そういった人間関係も影響してのことだろう。
廣瀬さんなら肩書きくらい全然気にしていないだろうけど。
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