マイ・フェア・ダーリン
その後、もつれるようにしていた三人が、ラストスパートで多少バラバラになり、湘教大は僅差の3位で7区へと襷を繋ぐ。
そこから7区のランナーが必死に粘り、とうとうふたりを抜いてトップに立った。

『湘和教養大学、今この平塚中継所、初めてトップで襷リレー!』

「彼がこの大会のMVPに選ばれました」

この活躍ぶりならそうだろうと、私もふんふんとうなずく。

「だけど、この大会で一番印象深いのがここからで」

和紗ちゃんが言葉を止めると、アナウンサーの叫びがタイミングよく飛び込んできた。

『なんと! なんと区間記録を越えるタイムです!』

好記録で襷を繋いだその人は、観客や仲間から祝福されてもニコリともせず、俯いて人の間を通り抜けていく。

「あれ? このユニフォーム……」

「澤南大です。澤南大はリタイアしてしまったので、復路はオープン参加と言って、走っても記録には残らないんです。だけど、この7区の区間新相当のタイム、そして8区、9区、10区と連続で“幻の区間賞”を叩き出すんです」

復路は10分差以降は一斉スタートになるのだが、澤南大もトップから10分遅れでスタートしていた。
ところが、どんどん追い上げて今や5位の位置にまで来ていた。

そんな中、湘教大の8区は2位との距離を少し広げて襷を外す、その先に待っているのは、

「廣瀬さん!」

ふわっふわの笑顔で両手を上げ、「りょーせー!」と仲間の名前を呼びながらピョンピョン飛び跳ねている。

「若い……かわいい……」

「そうだった! 9区は全部見ましょうか」

DVDを入れ替えて8区の途中から観ると、戸塚中継所で準備している選手の様子が映った。

『湘和教養大、この戸塚で待ち受けるのは初めての箱根、四年の牧廣瀬です。追う志野原大学の矢代、また澤南大の浦垣も四年生。四年生同士の意地のぶつかり合いが見られるかもしれません』

防寒のダウンコートを着た廣瀬さんが、入念にストレッチしている様子も映し出されていた。
緊張しているかと思ったら、チームメイトと笑顔で会話している。
当時おそらく二十二歳くらい。
今の私よりだいぶ若く、こんな若い子は恋愛対象に見ていないのに、一瞬の映像だけで動悸が激しくなる。

「これ、昔の映像でよかった……」

私、廣瀬さんが相手なら、きっと未成年でも手を出してた!
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