マイ・フェア・ダーリン
13km地点で、廣瀬さんは区間五位ペース。
区間トップで走っているのはオーブン参加の澤南大で、中継もその選手とシード権争いが中心になっていく。

『二号車です! 直線に入ると若豊大学の背中がチラッチラッと見えるようになってきました! オーブン参加の澤南大浦垣。区間記録ペースで好走を続けています!』

アナウンサーの興奮が伝わったように、和紗ちゃんの声にも熱がともる。

「この浦垣くんも、アンカーの五十嵐くんも実質区間賞の走りで、オープン参加の大学がどこまで追い上げるのか、注目は優勝した湘教大より澤南大に集まっていたんですよね」

「本っっ当に、間が悪いなー」

映ったと思っても先導する白バイ隊員の紹介だったりして、いまいち廣瀬さんが注目を集める場面がない。

横浜駅前に入り、四車線ある広い通りは高い高架によって日陰となっていた。
後ろを走る車のフロントガラスには強さを増した日差しが反射して、ダイヤモンドのような光を放っている。

ここでふたたび給水があり、やはり廣瀬さんは最後に微笑んで左手を上げる。
そのペースは落ちておらず、横浜駅前のチェックポイントでは区間三位になっていた。

『湘和教養大学は名門校でありがら低迷が続いておりシード落ちなども経験しました。しかし、和田監督の元で強い湘教大が復活。この牧のふたつ下の学年、今の二年生に速い選手がたくさん入ってきて、黄金世代と呼ばれています。その分、この牧、そして2区を走りました志田なんかは、なかなか出場機会を得るのも難しい立場でしたね』

『そうですねえ。牧くんなんかは特に高校時代に速い選手ではありませんでしたから、相当努力したんだと思いますね』

サラッと紹介された廣瀬さんの状況は、実際にはかなり大変なものなのだと思う。
「出られただけで十分」という言葉には、少しの嘘もなかったのだ。
同時に、高校時代に活躍しながらも、廣瀬さんに出場機会を奪われた人もいるかもしれない。
結局箱根に届かなかったランナーはたくさんいる。
見た目にはどうしてもただ走ってるだけの、この変化に乏しい映像の中には、悲喜こもごもがぎゅうっと詰まっているんだ。
箱根駅伝を楽しむというのは、そういう人たちの想いを感じることなのかもしれない。
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