マイ・フェア・ダーリン
「さっさと告白しちゃえばいいじゃないですか」
「無理だよ~」
「あら、だったらいっそ結婚しちゃえば?」
「『だったら』と『いっそ』の使い方おかしいです」
「“牧優芽”ってゴロ悪くないか?」
ふだん空気みたいなくせに、空気を読まない課長は、時折女子トークに参戦することがある。
「ゴロが良すぎる“牧まき”よりマシでしょう!」
「す、すみません……」
課長が額の汗を拭ったとき、
「西永さん……」
園花ちゃんの声色がガラリと変わって、震えるように私を呼んだ。
「ん? どうしたの?」
何かトラブルだと察して、浮わついたところのない声で応えた。
「伝票が、足りません。……三枚も」
「三枚……」
「三回数えましたし、データともつき合わせて、倉庫の方にも電話で確認取ったんですけど、確かに出庫してるはずなのに足りないんです」
示されたディスプレイを確認し、伝票の束も受け取る。
「ありがとう。あとは引き継ぐから、データの入力お願いしていい?」
伝票はお金と同じ。
ないはずがない。
数え間違いなのか、どこかに紛れたのか、勘違いなのか、とにかくどこかに原因がある。
紛失してる伝票を確認すると、三台口の伝票が丸々ないことになっていた。
つまり、枚数は三枚だけど、トラブルは一件だ。
それだけで少し気持ちが楽になる。
風邪薬でぼーっとするし、三件のトラブルに対応できる元気はない。
園花ちゃんを信用しないわけじゃないけれど、もう一度数え直して、データも確認して、ゴミ箱も引き出しも、重なった書類の間も調べる。
……ない。
こうなれば、伝票が移動した経路をひとつひとつ追跡して行くしかない。
「これだけ確認したんだから、私たちの紛失ではないと思うよ」
心配そうに私を見る園花ちゃんにあえて笑顔を向けて、まず担当した乗務員さん三人それぞれに直接電話して確認してみた。
『俺は持ってないよ』
『田代さんが受け取ってたのは見た』
『ちゃんと渡したよ! なに? 失くしたの? しっかりしてよ』
お礼と謝罪を繰り返して電話を切ると、桝井さんが声を掛けてくれた。
「見つからない?」
「はい」
「ごめんね。この入力終わったら、私も手伝うから」
課長も含め暇な人なんていないし、通常業務は止まってくれない。
他の業務をカバーしてもらって、私がひとりで動く方が効率的だ。
「ありがとうございます。でももう少しひとりで探してみます。倉庫の方行ってきますね」
「無理だよ~」
「あら、だったらいっそ結婚しちゃえば?」
「『だったら』と『いっそ』の使い方おかしいです」
「“牧優芽”ってゴロ悪くないか?」
ふだん空気みたいなくせに、空気を読まない課長は、時折女子トークに参戦することがある。
「ゴロが良すぎる“牧まき”よりマシでしょう!」
「す、すみません……」
課長が額の汗を拭ったとき、
「西永さん……」
園花ちゃんの声色がガラリと変わって、震えるように私を呼んだ。
「ん? どうしたの?」
何かトラブルだと察して、浮わついたところのない声で応えた。
「伝票が、足りません。……三枚も」
「三枚……」
「三回数えましたし、データともつき合わせて、倉庫の方にも電話で確認取ったんですけど、確かに出庫してるはずなのに足りないんです」
示されたディスプレイを確認し、伝票の束も受け取る。
「ありがとう。あとは引き継ぐから、データの入力お願いしていい?」
伝票はお金と同じ。
ないはずがない。
数え間違いなのか、どこかに紛れたのか、勘違いなのか、とにかくどこかに原因がある。
紛失してる伝票を確認すると、三台口の伝票が丸々ないことになっていた。
つまり、枚数は三枚だけど、トラブルは一件だ。
それだけで少し気持ちが楽になる。
風邪薬でぼーっとするし、三件のトラブルに対応できる元気はない。
園花ちゃんを信用しないわけじゃないけれど、もう一度数え直して、データも確認して、ゴミ箱も引き出しも、重なった書類の間も調べる。
……ない。
こうなれば、伝票が移動した経路をひとつひとつ追跡して行くしかない。
「これだけ確認したんだから、私たちの紛失ではないと思うよ」
心配そうに私を見る園花ちゃんにあえて笑顔を向けて、まず担当した乗務員さん三人それぞれに直接電話して確認してみた。
『俺は持ってないよ』
『田代さんが受け取ってたのは見た』
『ちゃんと渡したよ! なに? 失くしたの? しっかりしてよ』
お礼と謝罪を繰り返して電話を切ると、桝井さんが声を掛けてくれた。
「見つからない?」
「はい」
「ごめんね。この入力終わったら、私も手伝うから」
課長も含め暇な人なんていないし、通常業務は止まってくれない。
他の業務をカバーしてもらって、私がひとりで動く方が効率的だ。
「ありがとうございます。でももう少しひとりで探してみます。倉庫の方行ってきますね」