マイ・フェア・ダーリン
倉庫でももう一度確認してくれたけれど、やはり見つかっていない。
「こっちじゃないと思うよ」
責任の所在は明確ではない。
事務で失くしたのか、倉庫でのミスなのか、乗務員さんなのかわからないけれど、探しているのが私なので、私が責められるような立ち位置になる。
忙しいのはお互い様で、伝票がなくて困るのもお互い様なのに、頭を下げるのは私だ。
「すみませんが、思い当たるところ、もう一度確認してください。よろしくお願いします」
あってはならないことだけど、こんなことはよくある。
いくらシステムを導入しても、使うのは人間だし、伝言ゲームになる部分は生じてしまう。
何度も何度も経験したことなのに、何度でも心臓が痛くなる。
体調も悪いし、下柳のヤローには嫌味を言われるし、今日は本当に最悪だ。
歩いているだけなのに、広い敷地と風邪の影響で息が切れる。
「げほっ! げほっ! ……はあ、苦しい。もうこの仕事辞めちゃおうかな」
短絡的な考えだし、本心ではないけれど、そんな気分にもなる。
真面目に一生懸命働いてはいても、仕事自体を愛しているかというと、そうではない。
ひとえに生活のためだ。
私だって夢を追い求め、人生を掛けるような仕事がしたかった。
きれいな職場でおしゃれなスーツを着て、その人にしかできないクリエイティブな仕事を任されている女性を見ると、コンプレックスも感じる。
本当に、私って何もかもダメなんだよな……
「あ、西永さん!」
呼ばれて立ち止まると、地面でしょぼくれている私の影に、駆け寄る影が見えた。
振り返るとそこには、ふわふわ笑う廣瀬さんの姿がある。
「ちょうどよかった! 今伝票届けようと思ってたんです」
廣瀬さんの影の中に、私はすっぽりくるまれた。
「……伝票?」
「三台口の伝票、一番上の伝票にしか受領印押されてなかったんですよ」
荷物を納品したら、必ず受領印をもらうことになっている。
伝票があっても受領印がなければ、荷物は届いていないものとみなされ、最悪は弁償になってしまう。
「向こうのミスだったので、トラブルにはならなかったんですけど、今急いでもらってきました」
差し出された伝票はしっかり三枚。
受け取る手が震えた。
「もしかして、探してました?」
声も出せずこくこくと強くうなずくと、俯く私の頭の上で廣瀬さんが慌てた。
「うわー、すみません! 受付にはちゃんと言っておいたんですけど、直接電話すればよかったですね。大変だったでしょう?」
感謝を言いたいのに、もっと言いたいこともあるのに、涙しか出なかった。
廣瀬さんの影の上に、滴がボタボタ落ちていく。