マイ・フェア・ダーリン
━━━━━先日。
寒さも厳しくなってきたので、私たちはもっこもこの膝掛けをほとんど毛布のようにかぶりながら、相変わらずデータの打ち込みに勤しんでいた。
事務所の出入口付近に机が並んでいるため、誰かが出入りするたび冷気が入ってくる。
机の下で脚をすり合わせながら、私は園花ちゃんに持ちかけた。
「今日は一段と寒いよね。昼休み、足湯しようよ」
持ち込んだバケツを使って、私たちはときどき交代で足湯をする。
通り過ぎる人たちはびっくりするけれど、それがどうした。
寒いんだよ!
「賛成です。爪先痛くなってきましたもん」
「そんな靴履いてるからでしょう」
余裕の顔で未来人さんは微笑むけれど、その足元は、雪国使用のもこもこ長靴(カイロ入り)で固められている。
私もブーツで出勤しているけれど、仕事中はパンプスに履き替えていた。
「この制服、全部フリースにしたらいいのに」
マウスを操作するほんの2秒の間も、空いた左手を膝掛けの中に突っ込んだ私は、袖丈以外は年中変わらない制服に不満を持っている。
「フリースでもこもこの姿、牧さんに見せるんですか?」
「………………………我慢する」
園花ちゃんから嘲笑とともに突き付けられた現実の壁に、私はあっさり屈した。
「恋してれば寒さも吹っ飛ぶわよねえ。園花ちゃんも恋したらいいのよ」
ゴム長靴を履いていても桝井さんはどこまでも乙女だ。
「恋よりそこのドア封鎖した方が確実です!」
総務課の人が出入りして、また寒風が入り込んだ。
そのドアを睨んだ流れで、隣に貼ってあるカレンダーが目に入る。
「ところでさ、バレンタインってどうしたらいいの?」
カタカタカタカタカタカタカタカタ………
キーボードの音ばかりが響く。
聞こえなかったのかな? と私は少し声を大きくして同じ質問を繰り返そうとした。
「ところでさ、バレンタインって━━━━━」
「まだ何もしてないんですか!?」
「もう一週間切ってるよ! 動き出し遅すぎる!」
左右から同時に責められて、私はほんのちょっぴり痩せた。
「桝井さーん、飯星さーん。仕事ー」
手の止まったふたりに課長の注意が飛ぶ。
仕事を再開したので、私語も再開。
「すみません。バレンタインの経験が貧相なもので」
みんなどこで情報を得て、どうやって決めているんだろうかと思う。