マイ・フェア・ダーリン
一本電話を終えて、桝井さんが相談に乗る姿勢を示してくれた。

「前はどうしてたの?」

「前の彼は好きなチョコレートが決まってたので毎年それを。その前も本人の意向を聞いて買ってました。あ、園花ちゃんに職場用の買い出しお願いしてたよね? どこで買ったの?」

「課長のなんてコンビニで買いましたよ」

課長がビクッと肩を上下させたけれど、全員見なかったことにした。

「桝井さん、旦那さんと息子さんには?」

「スーパーで食材買うついでに三つ同じのをカゴに入れただけ。予算はひとり300円ね」

主婦の仕事において、桝井さんの乙女モードは発動されないらしい。

「わからないなら、知り得る限り一番高いチョコレート買えばいいですよ。告白するとき安チョコだと自信出ませんから」

当然のように園花ちゃんが言った言葉に引っ掛かる。

「そもそも私、チョコレート渡した方がいいのかな?」

左右で同時に深いため息が聞こえ、伝票がその風にピラピラと踊った。

「優芽ちゃんったら、今さら何を……」

「私が牧さんなら、もらえるって期待してますね」

「いやいや、そんなのわかんないよ。逆にびっくりされるかもしれないしさ」

データ入力の合間に、桝井さんの小さなパンチが左脇腹の肉溜まりに炸裂し、園花ちゃんも語気を強める。

「面倒臭いからさっさとくっつけばいいんですよ!」

応援というより、雑務処理に近い扱いだが、それでも他に頼れる人はいない。
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