マイ・フェア・ダーリン
「だってー! フラれたらどうするの? 仕事はこれからだって続くんだよ?」

「牧さんって独身で彼女もいないんですよね? モテないだろうし、押しに弱そうだし、断らないと思います。万が一フラれたって、せいぜい電話だけの付き合いじゃないですか」

「うれしくない! もっと励ましてよ!」

破けてしまった指サックを交換しに、園花ちゃんは席を立って行ってしまう。

「優芽ちゃん」

諭すように真剣な声で、桝井さんが言う。

「もし牧くんが期待して待ってた場合、あげなかったら逆に距離ができちゃうかもしれないわよ?」

「………………チョコレート、渡します」

桝井さんはにっこり笑って、私の背中をポンポンと叩いた。

「でね、私はこれがいいと思うのよ。“AKIRA Enjoji”。予約は受けてないから、逆にこれからでも並べば間に合うし」

いつの間にかデータ入力から、高級チョコレート検索に変わっていたらしい。
その商品ページをプリントアウトして、蛍光ペンで印をつける。

「桝井さーん、西永さーん、仕事ー」

課長の声がするけれど、全員一丸となって聞こえないふりをした。

「私これね」

「あ、私の分もお願いします!」

戻ってきていた園花ちゃんも、そこばかりは明るい声で参加する。

「ごちそうするから付き合ってよ~」

新しい指サックの装備された手を、園花ちゃんがうん、と言うまで握り続けた。



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