マイ・フェア・ダーリン


……というわけで、混むとわかっているこんなところに私と園花ちゃんは来ていたのだ。

人と人の間から、チラチラとチョコレートらしき芸術品が見える。

「写真で見るのと実際と、結構印象が違うね」

「ひと粒400~800円ですからね。さすがの迫力です」

「ええ~どうしよう」

前の人たちの注文を聞いていると、セットになったものを買っている人が多いようだ。
桝井さんに頼まれたものも三個入り1200円。
対して園花ちゃんはバラ売りで三つ厳選するらしく、必死にプリントアウトした紙とショーケースを見比べて選んでいる。

「大変お待たせいたしました。お次の方、お伺い致します」

「は、はい!」

妙に緊張して、あれこれメモしたものにも自信がなくなっていた。

「こ、この三個入りひとつと、……」

決まっている桝井さん分を頼むと、園花ちゃんが自分の分をさらっと注文する。

「“月の雫”と“秘恋”と“なごり雪”をひと箱に詰めてください!」

店員さんが復唱して、トレイに乗せていく。

「以上でよろしいでしょうか?」

少し疲れた店員さんの笑顔に圧倒され、私はあわあわと目をさ迷わせた。
ショーケースを見ても何も目に入ってこないばかりか、きらめきに目眩がした。

「ぜ、全種類ひとつずつ!!」

目を閉じても、これなら注文可能。



< 77 / 109 >

この作品をシェア

pagetop