マイ・フェア・ダーリン
私の愛がよほど恐ろしかったのか、爆発物でも処理するみたいに、高級チョコレートを通りすがりの人物に手渡した。
どこの誰でももらってくれるならよかったけれど、この人だけは最悪だ……!
園花ちゃんなんて死人(ここは“しびと”と読んで! なんかそんな感じがするの!)のような顔で、課長と下柳のやり取りを見ている。

なんなのこれ。
今朝のことと言い、“間が悪い”って空気感染でもするの?

その下柳のヤローが私を見た。
短い時間で、私もそれなりの覚悟と計算を整える。

「配車担当のみなさん宛です。いつもお世話になってるので、みなさんで召し上がってください!!」

“みなさん”を強調して言った。
もしかしたら、廣瀬さんにも届くかもしれないと思ったら、下柳相手なのにドキドキしてしまう。

「ありがとう」

存外やさしい表情で下柳は箱を受け取って、私も笑顔を返した。
届け! 廣瀬さんに届け! と箱ごと溶けそうなくらい強く念じると同時に、「お前“秘恋”だけは食べるなよ。あれひと粒で800円もするんだから」と言葉に出さずに訴えた。

「あのチョコレート、体内に入ったら爆発すればいいのに」

下柳が事務所を出ていった直後、冷え込み厳しい世の中を、さらに底冷えさせるような声で園花ちゃんが言った。

「廣瀬さんも食べるかもしれないんだから、今だけは呪わないで……」

どうかどうか、ひと粒(できれば『秘恋』)でいいから廣瀬さんが食べてくれますように!



< 81 / 109 >

この作品をシェア

pagetop