マイ・フェア・ダーリン


作戦が失敗したとわかったのは翌日の朝。

「おいしかったです! めちゃくちゃおいしかったです! 800円って思って食べるとより一層おいしかったです!」

「濃厚だったわね~。400円分しっかり濃厚! 100円の板チョコの4倍濃厚だったわ~!」

と“AKIRA Enjoji”について、桝井さんと園花ちゃんがきゃいきゃい騒いでいるのを、ベストのボタンを留めながら「ほえ~」と聞いていた。
私はひと粒も食べていないので。

「西永さん、おはよう」

そのとき目の前に立ったのは、件の高級チョコレートを大量に食べたであろう下柳だった。
痛いニキビが顔中にできればいいのに。

「おはようございます」

「今夜空いてる?」

「はい?」

「食事に行こう」

ここで注意していただきたいのは、下柳は「食事に行こう」と語尾を下げて言ったことだ。
「食事に行こう?」と語尾を上げて私の意向を伺うのではなく、「食事に行こう」と決定を告げるように。

人通りもあり、桝井さんと園花ちゃんがいて、課長にも聞こえている。
そんな中で堂々としたお誘いだった。
男らしい!
ちょっぴり感動したせいもあり、反射的に「嫌です」と答えるのはかろうじて堪えた。
それをいいことに、

「帰りに迎えに来るから」

と事務所を出ていってしまう。
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