マイ・フェア・ダーリン
「それで、今後のことなんだけど」
「今後?」
「とりあえず付き合うでしょ? 俺たち」
「………………………………………………………………………………………………………………は?」
人間、あまりに驚くと語彙力が蒸発するらしい。
いつもなら脊髄反射で出てくる罵詈雑言がすっかり鳴りをひそめている。
「みんなの前であんなチョコレート渡して、こうしてデートまでしてさ、付き合ってなかったらおかしいだろ」
「付き合うって、そういう理由で決めるものではないと思いますけど(あと、これ“デート”じゃないから!)」
「どうせ彼氏もいないんだろ」
雲行きが……。
桝井さんは「一回食事に付き合ったら許してくれる」と言っていたけど、さらに首が締まったらしい。
「付き合ってみて合わなかったら、別れればいいんだからさ」
嫌だって!
“合う”とか“合わない”の問題じゃないんだって!
そもそもその、相性のアレやコレを確認するのさえ無理なんだって!
「あの、私他に好きな人がいますから」
「俺と付き合ったら俺を好きになるって」
情熱の国の出身なのか何か知らないけど、下柳は理解できない異国の論理を振りかざしてくる。
ノー! ノー! アイ キャント スピーク ユア ランゲージ!!
「そもそもちゃんと『配車担当のみなさんで』って言ったのに!」
「あのときのあんたはかわいかったなあ。俺、すっかり勘違いしちゃった。責任取れ」
「許してください! お願いします! 今ここで土下座しますから! 『あんながさつでかわいくない女なんて振ってやった』って社内中に広めてくれていいですから!」
「面倒臭いな。悪いようにはしないって」