マイ・フェア・ダーリン
他人様のデート(いや、これは違うけど!)に乱入したくせに、廣瀬さんは特に何をするでもなく、ふらっと下柳の隣の席に座った。
すかさず店員さんが運んできたお水を、半分ほど飲んで息をつく。

「お腹すきましたね」

下柳が凝視しているにも関わらず、廣瀬さんはメニューをじっくり吟味し始めた。

「パスタなんて久しぶりです。何がオススメですか? あ、辛いのもおしいそうですね。このスープスパゲティもいいなあ。せっかくだから食べたことないのにしよう。あ、スパゲティって言えば、学生時代はトレーニングに白のTシャツ着てたんですけど、よくトマトソースつけちゃったんです。だから染み抜きの技術は上達したんですよね。最後は紫外線に当てると消えるって知ってました? カレーもスイカも同じ方法で色素抜けるんですよ。食器洗い用洗剤を染み込ませて、普通に洗濯機で洗ってから。これ教えたら、みんなから感謝されて、寮内では定番に……すみませーん。きのこのバターしょうゆスパゲティ、ひとつお願いします」

と怒涛の勢いで話しながら注文までしてのけた。
廣瀬さんの意図はわからないけれど、何か言わなければと思い、とりあえず口の中のたらこクリームスパゲティを飲み込んだ。

「バターしょうゆ、好きなんですか?」

絶望的にどうでもいい質問が口から出た。

「いや、そういうわけではないんですけど、ちょっと珍しかったので」

「こっちのたらこクリームスパゲティもおいしいですよ。モサモサしてるけど」

「あ、じゃあ少しいただきます」
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