悪いオトコ
2
……誘いはいつも彼の方からだった。

こちらからの出方を探り当てたように、それはいつも絶妙なタイミングで仕掛けられた。

「……そろそろ、俺に会いたくなったでしょ?」

『そんなわけない』と喉元まで出かかる。

「俺は、君に会いたかったよ…」

なのに甘い台詞に、言いたかった言葉はあっさりと呑み込まれてしまう。

電話越しでも明らかな、ごくりと鳴る喉に、

「…ふふっ」

と、彼は笑って、

「……君も、俺に会いたかったんだよね」

私をいとも簡単に丸め込む。

「どうして……」

疑問だけが口をついて出るのに、

「……考えたらダメだよ、紗耶ちゃん」

言って、

「……俺を、ただ好きでいればいい」

まるで呪文か何かのように、私の思考を奪い去る。

< 10 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop