悪いオトコ
「じゃあ、とりあえず今日は一万円貸してくれる?」

「……一万円って、」思ったよりも少ない金額に疑問だけがつのる。お金を無心するような男なら、もっと大金を出させようとするんじゃないだろうか。

「金額はどうでもいいんだよ。俺は、君との間に意味がほしいだけだから」

彼の思惑は一向に知れず、たださっきも食事を奢ってもらっていてそれが相殺できるようなら、お金を出してちゃらにもしてしまいたかった。

貸しもそうだけれど、彼には一切の借りも作りたくはないというのが本音だった。

お財布から1万円を出して渡すと、

「ありがとう」

と、彼は受け取って、

「これで、また会えるね」

と、微笑って見せた。

「口実があれば、会わずにいられなくなるでしょ。このお金は、次に会う時に返すから、必ず会ってね」

「…ええ、はい」頷きながらも、疑いはふくらんだ。

(……お金を返すために会うことに、何の意味なんかがあるんだろう。そうまでして会わなきゃいけない意味なんて、)

そこまで考えて、ふと彼の顔を仰いだ。

だったらなぜ自分から断らなかったのかと、どこか妙にも感じられて、

改めて、たやすくは離れられない彼の魅惑のようなものを思い知らされた気がした。

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