悪いオトコ
「これから、ふたりで飲みにでも行かない?」

パーティーがお開きになった後で、誘われるまま会場近くのバーへ入った。

そこで、「改めて自己紹介すると、俺はこういう者だから」と、名刺を差し出された。

名刺には、『チーフディレクター 一樹 櫂』という肩書きと、大手のデザインプロダクションの名前があった。

「俺は、ここのプロダクションのチーフデザイナーだけど、それは名目上在籍してるってことになってるだけで、普段はフリーでやってるから」

と、説明をして、

「だから、連絡は全てこっちの個人の携帯にするようにしてね」

会社の番号の下に記載された携帯番号を、指でトントンと指し示した。

「ええ、はい…」

名目上の在籍ってなんでだろうとも一瞬思ったけれど、フリーのデザイナーならそういうこともあるのかもしれないと納得をしてしまった。


思えば、最初から偽りだと見破れるような出来事は幾つもあったのに、彼の見た目の良さに自ら蓋をしていたのかもしれなかった……。


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