悪いオトコ
「そういうの、狡いよね…」

「ズルい? どこが」

薄く笑った表情を崩さないまま口にして、

「俺は、普通に恋愛をしてるつもりだけど」

箱から抜き出したタバコを口に咥えた。

「……普通にって」

彼にとっての普通が理解できないと感じる。

「なのに君は、俺を好きなんかじゃないよね?」

訊きながらも、答えを求めてはいない独り言のような風で、煙を吹かした。

所詮この人には、人の気持ちなんて関係ないんだろうと思う。

それが急に憎たらしくも感じられて、

「……嫌いだったら、付き合ってないでしょう?」

そう口にすると、

「へぇー……」

と、意外にも驚いた顔つきになった。

「俺を、好きだなんて……」

タバコをもみ消して、ロックグラスを手にすると、

「……嬉しいね」

本当にそう思ってるのかどうかもわからない笑みを浮かべて、呟いた。


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