悪いオトコ
「……どうして、本気になったらいけないのよ…」

ぐずぐずと流れ続ける涙に、

「……泣くなって言ってる」

もう一度、今度は簡単には脱けれない力で強く抱き締めて、

「……俺なんかに、本気になってもしょうがないだろ」

どこか寂しげにも聴こえる声音で呟いた。

「しょうがなくなんかない……」

言って、どうしてこの人の腕の中はこんなにもあったかいんだろうと思う。

「君さ、他の人と違うよね…」

仕方なげな口調で彼が話す。

「俺はこんな風だから、みんないずれは離れていったし、『本気じゃないでしょ?』とも、何度突きつけられたかわからない……」

私を胸に抱いたままで彼が続ける。

「だからね、初めから嘘吐きを演じることにしたんだよ。そうすれば、」

一旦言葉を切って、ちらりとだけ私の顔を覗いて、

「……俺は、傷つかない」

そう言った。

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