平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「ではディオンさま、話してください」
「忘れていなかったのか。正直に話そう。座って」

 桜子は丸太の上に腰を下ろした。隣にディオンが並ぶ。ラウリとニコは少し離れたところで、辺りに注意を向けている。

「……亡くなった母から、国政に関わらないよう、物心がついたときから言い聞かされていたんだ」
「皇子さまなのに……」

 淡々と話し始めたディオンに、桜子は首を傾げる。

「私は現皇帝ルキアノスの子供ではないんだ。母は前皇帝の皇妃だった。ルキアノスは皇帝という地位と、絶世の美女とうたわれた母を欲し、父はルキアノスに暗殺されたんだ」

 ディオンの美しい顔が憎しみに歪む。それは驚く内容で、桜子は言葉が出てこない。

「ルキアノスが母を娶ったとき、私がお腹にいた。母は私を守ろうと、国政に関わらないようずっと言い続けていた」

 桜子は黙って耳を傾けている。

「なぜそんなことを言うのか理解できなかったが、私は素直に音楽や絵を学んでいたんだ。母が病気で亡くなる数日前に、私の父が前皇帝で、ルキアノスに殺されたことを話され、初めて父親が誰なのか知った。私が十四歳のときだ」

 実の父親を、今の父親に殺された。壮絶な話を聞いて、桜子は心が痛くなる。

「十五歳になり、アシュアン宮殿へ移り住んだ頃から刺客が現れ始めた。母が亡くなり、ルキアノスは私が目障りになったんだろう」
「じゃあ、昨日の男たちも……?」

 ディオンはフッと微笑んで頷く。


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