平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 そんな桜子にディオンは微笑み、静かに下ろす。

「私よりも海か?」
「せっかくの海ですから」

 わざと拗ねるディオンの手を桜子は引っ張り、海へ向かう。

 砂浜はほとんどなく、見た目は湖のようである。桜子は際に立ち、しゃがんで海に手を入れた。

「そんな前のめりになると、海に落ちる」
「ここは深いのですか? 生き物は住んでいますか?」

 濁ったような青白い海に興味津々の桜子だ。

「いや。この海はかなり塩の濃度が濃い。生き物は住めない。深さはあるが――」
「浮くんですね!?」
「よくわかったな。あっ! サクラっ!」

 アラビア半島にある死海のような海なのだと思った桜子は、行動に移していた。ディオンが答えているうちに、海に飛び込んでいたのだ。

 水しぶきが上がり、ディオンの顔にもかかる。

「きゃーっ、浮くわ! 楽しいっ!」

 桜子は海のしょっぱさに顔を顰めながら、ディオンに手を振る。そんな無邪気な桜子に、ディオンは呆気に取られる。ふたりから離れていたラウリとニコも何事かと駆け寄ってきた。

「殿下っ、助けに!」

 ニコが海へ飛び込もうとしたが、ディオンが笑いながら制止する。

「大丈夫。楽しいみたいだ」

 ぷかぷか浮いている桜子に、ディオンはラウリとニコが見たことのない笑みを浮かべている。

「あんなことをする娘を、初めて見ました」

 ラウリはディオンの表情とは反対に、唖然となっている。そんな護衛ふたりを横目に、ディオンも海へ飛び込んだ。

「ああっ! 殿下っ!」

 ふたりは後を追って海へ飛び込もうとしたが、ディオンと桜子があまりにも無邪気に楽しんでいるのを見て、その場に留まった。

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