平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 手を振っていたのは、ダフネ・カッチャ。桜子と同い年の十八歳だ。

 イヴァナ皇后は、ディオンより三歳年下である第四皇子の母だ。そして、ダフネ姫はイヴァナ皇后の兄の娘である。娘がいないイヴァナ皇后にとって、ダフネ姫は目に入れても痛くない存在の姪である。

 ディオンの馬に一緒に乗っている桜子を見て、上機嫌だったダフネ姫の顔がみるみる不機嫌になる。

「ディオンさま! その汚らしい娘は誰ですのっ!?」

 幼さを残す顔立ちのダフネ姫は、おぞましいものを見るような嫌そうな目つきで桜子を見据える。

「これは、これは。ダフネ、突然どうしたのですか?」

 ディオンは桜子が出会った頃の、女ったらしだと思ったときの極上の笑みを浮かべてから馬を降りる。

 馬上は桜子だけになり、すかさずニコが手綱を持つ。

 一瞬、馬上でひとりになってしまい、どうすればいいのかと思った桜子だが、ニコの手にホッとした次の瞬間、ダフネがディオンに抱きつくところを見てしまい、なんとも言えない嫌な気持ちになった。

(あの女の子は……ディオンさまが好きみたい)

 ダフネはディオンの腕にぶら下がらんばかりだ。そんなふたりは宮殿に向かって歩きだす。

 ダフネは歩きながら後ろを振り返り、口を開く。

「ディオンさまっ、あの娘は何者なのですか?」

 まだ桜子が気になるダフネはしつこく聞いてきた。


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