平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「遠い異国の娘で、宮殿に滞在している」
「ディオンさまとご一緒しているなんて、嫌だわ」

 ダフネは素直に気持ちを口にする、甘やかされた姫だった。そこで、ディオンが濡れていることに気づく。

「まあ! 濡れていますわ!」
「湯浴みをしてきます。謁見の間で待っていてください」

 ディオンは丁寧に断り、彼女を迎えに来ていたカリスタに頼んだ。ダフネは渋々、カリスタについていく。

 カリスタと一緒にイアニスもおり、ディオンに近づいた。そして、濡れている姿に目を丸くする。

「いかがなさったのですか? 海に落ちたのでしょうか?」
「海に落ちたんじゃない。海で遊んだんだ。それよりも?」

 ディオンは海での楽しかったことを思い出し、小さく微笑むと、すぐに真面目な表情になった。

「イヴァナ皇后の使者がお待ちですが、私にはなにも話しません。ディオンさまに直接、と」

 ディオンは綺麗な形の眉をぎゅうっと寄せる。

(嫌な予感がする……)

「イアニス、湯浴みをしてくる」

 ディオンはその場にイアニスを残し、湯殿へ向かった。

 一方、ディオンが行ってしまった桜子は、馬上でふたりの後ろ姿を目で追っていた。

「サクラさま、馬を動かします。手綱をお持ちください」
「ありがとうございます」

 ニコは宮殿の門までゆっくり馬を歩かせる。そして自分の馬から降りたニコに手を差し出され、桜子も降りた。

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