平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 ニコは桜子に付き添い、後宮へ送り届けると、離れていく。

 日差しが強く、海水に浸かった桜子は肌がピリピリしていた。

(なにも考えずに海に飛び込んだのは、子供っぽかったわね……でも、ディオンさまが一緒に楽しんでくれたからよかった)

 ダフネ姫のことを考えないようにする桜子だ。

「おかえりなさいませ」

 ザイダが出迎える。桜子の髪の毛や衣装が濡れていることに、ザイダは「まあ!」と口を大きく開く。

「どうなさったのですか!? お怪我はっ?」

 桜子が怪我をしていないか確かめようと、茶色い瞳を忙しく動かす。

「海で遊んだの。泳ぐのは難しかったけど、浮かぶからたっぷり遊べたわ」

 桜子は楽しかった海を思い浮かべ、笑みを浮かべる。

「海に? 私たちは海の中に入って遊んだりしませんのに……殿下はその間どうされていたのですか?」
「ディオンさまも一緒に海の中に入って遊びました」

 ザイダはびっくりした顔になった。

「殿下が海の中で……? 遊んでいるところなんて、想像がつきませんわ」
「ふふっ」

 たしかに、優麗な第三皇子が子供のように海で遊ぶなど、考えられないだろう。

 ディオンは桜子と戯れていた。ときどき触れるようなキスはしょっぱくて、ふたりはそのたびにクスッと笑みを漏らしていた。

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