平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 湯殿でも、香油を塗られているときも、そして食事をしているときも、桜子はディオンのことを考えていた。

(あのとき、少し厄介なことになりそうだと言っていた……。厄介なことってなんだろう……)

 ディオンを慕うダフネ姫が気になっていた。

 そこへ、大きな葡萄を持ったカリスタが部屋へ入ってきた。ぼんやりと食事をしている桜子は気づかずにいる。

 カリスタはその様子を少し見ていたが、桜子の目の前に立った。

「海は楽しかったようだね」
「カリスタっ! 気づかなくてごめんなさい」
「海で遊んだから疲れたようだね」

 カリスタは、笑みを浮かべた桜子の対面に座る。

 自分が入室したこともわからなかったのは、ダフネ姫のことが気にかかるからだろうと推測するカリスタだ。

「おや。象牙のようなきめの細かい肌なのに、日に焼けているじゃないかっ。まったく、殿下も一緒に海に入るなんてどうかしてるよ。痛くないかい?」
「ザイダが香油を塗ってくれたので、大丈夫です」
「そうかい。我が国の香油は天下一品だから、すぐに元の肌に戻るだろうよ。サクラ、葡萄が美味しいよ。たくさん召し上がれ」

 カリスタに勧められ、桜子は葡萄をひとつ房から取り、口にした。
 

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