平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 ダフネ姫はディオンの前に両膝をついて、彼の手に口づけを落とす。

「残念ですけど、今日はこれで私たちは皇都へ帰りますわ。それと――」

 甘えたように笑みを浮かべて、ディオンを見つめる。

「それと?」
「あの小汚い娘は、今度来訪したときにはいなくなっていますわよね?」

 にっこり微笑む姿に、ダフネ姫の腹黒さが見える。以前から、ダフネ姫の性格は把握していたディオンである。

「それは約束しかねる。わけがあって面倒を見ている娘だ」

 ダフネ姫はディオンの答えに不満そうであったが、反論はしなかった。
 

 使者とダフネ姫が皇都へ帰っていった。皇都まで馬で二刻ほど。ベルタッジア国の五ヵ所ある領の中で、一番近いのがアシュアン領だ。

「まさか、ルキアノス皇帝がダフネ姫を娶るように勅命を出すとは……予想外でした」

 イアニスは重いため息をつく。

「大事にしているイヴァナ皇后の姪か。いったいなにを考えているんだ?」

 昨日刺客に狙われたばかりである。

「ディオンさまを殺すのは諦め、取り込もうとしているのでは?」

 イアニスの言葉に、ディオンはフッと笑みを漏らす。

「それはないだろう。イヴァナ皇后の大事な姪など、ルキアノスはなんとも思っていない。ダフネを娶らせ、隙あらば狙ってくるはずだ」

 五年間も殺されかけているディオンだ。ルキアノス皇帝が考えを変えるとは思ってもみない。

「少し様子を見るしかないな。計画を早めるかは、ルキアノスの出方を見てからにする」
「御意」

 ディオンの言葉にイアニスは頭を下げた。

< 137 / 236 >

この作品をシェア

pagetop