平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 カリスタは嬉しそうに話したあと、しばらく桜子の勉強を見てから、後宮を後にした。

「そうだ……馬にも乗れるようになりたいんだった……」

 馬ならばディオンも反対しないはずだと考えて、夕食時に話してみようと思った。ディオンから夕食に誘われれば、なのだが。

「あの様子だと、まだ不機嫌かな……」

 意外と子供っぽいところがある。

「サクラさま、おそらく殿下は、サクラさまに会いたくて仕方がなくなっていると思いますわ」

 ザイダがお茶の器を片付けながら言った。

「そうかな……そんなことないと思うけど……」
「殿下は男らしいお方です。あのようなことでウジウジしているわけがありません」
「ちょっとお散歩してきます。気分転換に……」

 桜子はすっくと椅子から立った。気分転換というのは建前で、ディオンに会えるかもと考えたのだ。

「はい。殿下にお会いになれるといいですね」
「ザイダっ!」

 桜子の考えていることがすっかりわかるザイダだ。桜子は頬をほんのりピンク色に染めて、部屋を出た。

 庭から門のほうへ歩き、右手の広い道を歩いてみる。その道は通ったことがない。

(こっちへ行ったら、また叱られちゃうかな……)

 やっぱり戻ろうと思ったとき、背後から複数の蹄の音が聞こえてきた。振り返る前に「サクラ!」とディオンの声がした。

 ディオンは桜子の横で愛馬を静かに止めて、身軽に地面へ降り立つ。

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