平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「このようなところで。どうした?」
「お散歩を……」

 ディオンを探していたと悟られたくない桜子だが、美しい顔に笑みが浮かぶ。桜子の表情はわかりやすいのだ。

 ディオンは桜子を引き寄せると、ぎゅっと抱きしめる。

「怪我は?」
「全然痛くないです」

 ムキになるその言い方に、ディオンはさらに笑みを深める。

「それはよかった」
「ディオンさま、以前お話ししましたが、私、馬に乗れるようになりたいんです」
「そうだったな。これから練習をするか。ラウリ、ニコ、サクラ用の馬を見繕って中庭へ連れてくるんだ。ああ、先日やってきたあの葦毛の馬がおとなしくていい」

 ディオンの命令に、ふたりは厩へ向かった。
 

 その日から、ディオンの手ほどきで桜子は乗馬を習った。三日もすると、ディオンがおらずとも不安なく馬を乗りこなせるようになった。

 運動神経の良さに、ディオンをはじめ、ラウリやニコも舌を巻くほどだ。

「サクラ、少し出かけよう」

 宮殿の外へ出るのは海へ行ったとき以来だ。

「はいっ!」

 ディオンは慎重に、桜子の横で自分の白馬を歩かせた。


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