平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 のんびりと葦毛の馬を進ませている桜子は、アシュアンの街並みに瞳を輝かせている。

 活気のある市場や広場に、素朴な造りの民家。以前はディオンの前に座り、ある程度の速度もあったせいで、ゆっくり街並みを見ることができなかった。

「サクラ、私についてこられるか?」

 ディオンは白馬の足を速めた。その後を桜子は追う。桜子の後ろではラウリとニコが護衛していた。

 どこへ行くのかわからなかったが、桜子はある程度のスピードがある乗馬を楽しんだ。

 ディオンは前回訪れた海とは反対の方角へ向かっていた。鉱山のある森の入口だ。そこは桜子が倒れていた場所である。

 森の入口に近づいたディオンは馬の足を止め、反転させて桜子を待つ。桜子は馬を上手に操縦しながら笑顔でやってきた。

「楽しそうだな」

 ディオンは隣に馬を止めた桜子の笑顔を眩しそうに見つめる。

「はいっ! それより、ここは……?」

 樹木以外はなにもない場所である。そのとき、桜子はハッとなった。嗅いだことのある空気だった。

「ここは……」
「ああ。この木の横にサクラが倒れていたそうだ」

 桜子は葦毛の馬の背から地面に降り立つ。ディオンたちも馬から降りる。

「ここが……」

 なんの変哲もない森。桜子はしゃがんで地面を手で叩いてみた。

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