平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
第六章
 桜子はカリスタの寝台の横で、青白い顔で眠る姿を見守っていた。苦しそうではないのが幸いだ。

 イヴァナ皇后への憎しみが、ふつふつと湧いてくる。腰の下の切られた箇所よりも、胸のほうが痛い。

 カリスタの寝顔を見ていると、ここへやってきたときのことが思い出されてくる。洗婆として湯殿で出会い、最初に桜子の味方になってくれたことを考えると、胸が熱くなる。

「あのとき、カリスタが味方になってくれなかったら、どうなっていたかわからなかったの……ありがとう」

 優しかったカリスタに、胸がシクシクと痛んできた。

 とうとう桜子の涙腺は決壊して、涙が溢れ、頬を伝わっていく。

「カリスタ……がんばってね。また一緒にご飯を食べ……」

『一緒にご飯を食べたい』が、最後まで言えなかった。

 桜子はおもむろに椅子から立ち上がり、カリスタの額と手の甲に口づけをする。

「傍にいてあげられなくて……ごめんなさい」

 じりっと後ずさる桜子は、目の奥にカリスタの顔を焼きつけるように見てから、踵を返して部屋を出た。

「サクラさま?」

 ザイダはちょうどカリスタの部屋へ行くところだった。

 宮殿の廊下で桜子を見かけて声をかけたが、届かないようで、どんどん行ってしまう。


< 180 / 236 >

この作品をシェア

pagetop