平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「私なんてっ、いないほうがいいんです!」
「こうなったのは、決してサクラのせいではない!」

 まだ取り乱している様子を危惧したディオンは、桜子の首のあたりに手刀を当てた。桜子のすべての体重がディオンの腕にかかる。

「可哀想に……ボロボロではないか……」

 意識を失った桜子の顔にかかる髪の毛をそっと払い、静かにキスを落とす。

 遅れてやってきたラウリとニコが、桜子の乗っていた葦毛の馬を捕まえていた。

「ニコ。先に戻り、医者を待機させろ。落馬をしたようだ」

 傷口が開いており、黄色の生地に血の赤が混じっていた。そして泥も。

「御意」

 ニコは乗っていた馬に近づき、ひと足先に出発した。ディオンも桜子を自分の前に乗せ、傷に響かないよう静かに馬を進めた。

 
 桜子はアシュアン宮殿に着いても目を覚まさなかった。医師に治療されても、昏々と眠っていた。まるで現実逃避をしているかのようである。

 桜子が眠ってから、三日が経った。ディオンは心配で、桜子のそばをずっと離れないでいた。

 カリスタは持ち直し、食事も出来るようになっている。

「サクラ……そなたは今、元の世界を彷徨っているのだろうか……? 目を覚ますんだ」

(なぜあんなに取り乱し、必死になって元の世界へ帰ろうとしたのか……)

 夢中で剣の鍛錬をしていた桜子を思い出す。絶対になにかあったのだろうとディオンは確信していた。

 形のいい口から重いため息を漏らし、長い指を桜子の髪に差し入れ、そっと撫でる。桜子の長いまつ毛が小刻みに揺れた。



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