平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「サクラ？」

　ディオンは静かに声をかけた。

「私を困らせないでくれ。目を開けて、黒曜石のような美しい瞳を見せるんだ」

　ディオンが頬を撫でると、桜子の瞼がゆっくり開く。

「サクラ！　わかるか!?　ザイダ、水を！」

　桜子は焦点をディオンに合わせて、小さく頷く。その様子にディオンはホッと安堵する。

「私は……」

　声が掠れている。

　そこへザイダが水を持ってきて、ディオンは桜子の上体を起こした。ザイダからコップを受け取り、桜子の口へ持っていく。

　コクッと水が桜子の喉を通っていく。その姿をディオンは慎重に観察していた。

「身体の痛みは？」
「……ないです」

　桜子は首を左右に振った。視線をディオンに合わせない。その態度がディオンには歯がゆい。

「もう三日も眠っていた」
「えっ!?　三日も？」

　桜子はそこでカリスタを思い出して、ようやくディオンを見た。

「カリスタは!?」

　聞いてみたものの、答えが怖い桜子だ。

「持ち直して、食事ができるようになったよ」
「よかった……」

　心の底から安堵したが、不安が押し寄せてくる。そんな気持ちに襲われる。

「ザイダ、消化のいい食事を」
「はい。すぐにお持ちします」

　命令したディオンに、ザイダは両手を胸の位置で交差させて膝を折り、部屋を出ていった。

「サクラ、なぜ元の世界へ戻りたかったんだ？　血なまぐさいこの世界が、嫌になったのか？」

　ディオンは静かに語りかけた。

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