平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
二日後の朝食後。桜子は門に向かった。そこへ来るようにと、ザイダがディオンからことづかってきたのだ。

 門には桜子の乗る葦毛の馬が用意され、ディオンと護衛ふたりはすでに騎乗していた。

「サクラ、馬に乗って」

 桜子は馬番から手綱を譲られ、飛び乗った。

(あの約束を守るつもりなんだ……)

 ディオンが自分を元の世界へ戻す協力をする。そのことを考えるだけで、胸が痛む桜子だ。

 ディオンを愛している。元の世界へ戻りたかったのは、ひとえにディオンや、イヴァナ皇后に狙われているカリスタやザイダのため。

(私が邪魔なら……私を殺せばいいのに……)

 そう思っても、死にたくないのが本音。自分がいなくなることでみんなが無事ならば……そう思って、家族の元へ帰りたかった。

 今は家族よりもディオンに向ける愛のほうが強い。だから、ディオンのそっけない態度が悲しい。

 一行はラウリを先頭に、ディオン、桜子、そしてニコが後ろにおり、馬を走らせる。

 そしてなにも会話がないまま、目的の場所へ到着した。

 約一週間前、気が狂ったようになった森の入口だ。桜子は葦毛の馬から降りて、そこにゆっくりと向かう。

 ディオンも馬上から降り、離れたところから腕を組んで桜子を見つめている。

 この場所が手がかりというだけであって、本当に帰れるのか。

 しかし、桜子がここを離れてよその国へ行って生活するのは困難だ。それならば元の世界に帰り、ここでのことを忘れたほうがいい。

 

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