平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
(やっぱり……彼女と結婚するしかないんだ……)

 愛している人から言われると、桜子はショックで目頭が熱くなった。

「ディオンさま、帰りましょう」

 ディオンに背を向けると、歩き始める。その手が掴まれ、引っ張られた。そして、桜子の背がディオンの胸に当たり、腰に腕が回った。

「そなたは……嫉妬をしてくれないのか。私から去ろうとしていたのだから、それもそうだろうな……私はとてもやりきれない」

 ディオンの切ない声に、桜子は目を閉じる。閉じないと涙がこぼれてきそうだったのだ。

「……私たちの世界では、妻の他に愛する人を作ってはいけないんです。だから、いくら愛がなくても……無理なんです」

 この国の文化は違う。何人も娶っていい皇子の身分であるディオンには理解できないだろうと考え、言葉にした。

「私はあなただけを愛している。宮殿へ戻ろう。雨が降って来そうだ」

 ディオンははっきりと桜子に伝えた。

 その言葉に、桜子は空を仰ぎ見る。時刻はお昼を過ぎた頃で、空は真っ青だ。

(降りそうもないけど…)
 

 アシュアン宮殿に到着する頃、雨が降りそうなほど空が暗くなっていた。

 桜子はディオンに後宮に送られた。ザイダは桜子の姿に、ホッと安堵の笑みを浮かべた。それはここ一週間、毎日のことだ。

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