平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
(私のことよりも、自分を優先にしてよ!)

「……ラウリか?」

 薄布の向こうからディオンの声がした。眠っていなかったようだ。

 桜子は寝台に近づき、布を払い、姿を見せる。すると、横になっていたディオンが驚いたように身体を起こした。額にのせていた濡れた布が落ちる。

「なぜ……?」

 桜子は突っ立ったまま、言葉が出てこなかった。

「サクラ? なにか言ってくれ」

 込み上げてくるディオンへの想いが胸を詰まらせ、涙が出てくる。

「どうした? なぜ泣く?」

 突然泣きだした桜子に驚いたディオンは、寝台から降りようとした。彼が床に足をつける前に、桜子は思いっきり抱きついた。

 ディオンは抱き止めたが、後ろに倒れる。

「泣かないでくれ。サクラ、私の考えていることが当たっているのか、怖いな」

 上に乗っている華奢な身体を大事そうに抱える。

「……ディオンさまが好きです。傷つけてしまって、ごめんなさい……具合が悪いのに……自分を第一に考えてください」
「夢のようだ。もう私から離れないでほしい」

 桜子は頷き、右手をディオンの額の上に置いた。アメジスト色の瞳には、いつものような力強さがなかった。

「熱すぎます。冷やさないと!」

 桜子が立とうとするも、腕が外されず、動けない。

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