平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 胸の高鳴りを隠すように、トレーを台の上に置いて小さく深呼吸してから、ディオンに向き直る。

「横になってください。ずっとここにいますから」

 椅子に腰を下ろそうとした桜子の手が握られる。

「隣で寝てほしい」

 桜子は引っ張られ、ディオンの横に寝かされた。そして優しく抱き込まれる。

「サクラを愛したいのに……」
「ディ、ディオンさまっ! なにをおっしゃっているんですか。早く目を閉じてください」

 額にディオンの唇が落とされる。吐息はまだ熱い。

「ずっとサクラを見ていたい」

 具合が悪いディオンに甘い言葉を囁かれ、桜子は戸惑うばかりだ。

「では、好きなだけ見ていてください」

 黒曜石のような瞳で見つめた。そんな桜子に、ディオンはフッと笑みを漏らす。

「新手の寝かせ方か。じっと見つめていられると、恥ずかしくなってくる」

 ディオンはそっと桜子の唇にキスをして、目を閉じた。

 甘く見つめる瞳が瞼に隠され、眠りに落ちる。そんなディオンに桜子はホッとした。

(よかった……休んでくれた……)

 美しい寝顔のディオンだ。

(いつも私のほうが先に寝てしまうから、今日はディオンさまの顔を見ていられる)

 
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