平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 桜子がそばにいる安心感もあったのか、明け方には熱が下がった。
 
 桜子は一睡もしなかった。ディオンの熱が下がるように献身的に布を換え、大好きな人の寝顔を見ていた。しかし、完璧な顔を見ながら、今後のことを考えると不安が広がっていく。
 
 イヴァナ皇后との約束のことだ。今までのことを包み隠さず話すつもりでいる。周りの者を守ってもらうために。
 
 桜子は寝台の端に両腕を置き、顎をのせてディオンを見ていた。そこへ扉が静かに叩かれたあと、イアニスが入室した。
 
 桜子は隣の居間へ行き、イアニスに挨拶をする。

「ずっとディオンさまに付き添っていたと聞きました」

 廊下で控えていた女官に聞き、イアニスはひと安心した。桜子がディオンの部屋にいるということは、ふたりがいい方向に進んでいるのだろうと、イアニスは考えていた。

「はい。平熱になったと思います。あとで医者をお願いします」
「わかりました。あなたがそばにおられたので、ディオンさまの心が休まったのですね。今回の発熱は心労によるものですから」

 桜子は神妙な面持ちで頷く。

「ここは私がおりますので、サクラさまは部屋に戻り、休んでください。あなたの顔色が悪いです」
「でも……ここにいます」

 桜子が寝室のほうへ視線を向けると、イアニスは口元を緩ませる。

「わかりました。では、ディオンさまをよろしくお願いします」

 イアニスは礼をして、部屋を出ていった。桜子はイアニスを見送って、寝室へ行こうとする。

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