平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「ディオンさま」

 居間と寝室との境になっているアーチのところに、ディオンが立っていた。

「サクラ、ずっといてくれたのか」

 ディオンは性急な足取りで桜子のところへ進み、両手を広げ、抱きしめた。

「昨晩のことは、夢だったのかと……」
「本当です」

 桜子はディオンの胸に頭を置く。髪にディオンの唇が当てられる。

「とても幸せな気分だ。今日は一日中、こうしていたい」

 ディオンの指が桜子の顎にかかり、そっと上を向かされた。そしてピンク色の唇にキスを落とす。

 食むようなディオンの唇の動きに、桜子の口は自然と開いていき、舌が歯列を優しく割る。

「んんっ……」

 舌が絡まる濃厚なキスを、桜子はおずおずと受け入れていく。

「なんて可愛いんだ……ずっとキスをしていたい……」

 ディオンは桜子の慣れないキスに微笑み、強引に求めた。

 桜子はディオンの腕がなければ立っていられないほど、キスによって足に力が入らなくなっていた。

 ――トントン。

 扉を大きく叩く音に、桜子はビクッと肩を跳ねさせる。ディオンは残念そうにため息を漏らし、桜子を長椅子に座らせて扉へ向かう。

 入ってきたのは、イアニスと医者だ。

「殿下、顔色がよくなられましたね」

「もう診なくても大丈夫だ」

 ディオンは医者にやんわりと断るが、瞬時、桜子が「ちゃんと診てもらってください」と言い、仕方なく腕を差し出した。

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