平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 脈と目の下の色などを診た医者は、満足そうな顔になる。

「殿下の薬はサクラさまのようでございますね。言うことはございません。しかしながら、今日はごゆっくりなさってくださいませ」
「わかった。サクラと一緒にゆっくりしよう」
 
 ディオンとしては医師の言葉は願ったり叶ったりだ。だが、桜子の心境は複雑。これから話すことで、ゆっくりもしていられなくなりそうだ。
 
 医者が出て行ったあと、イアニスに残ってもらい、桜子は切り出す。

「私、イヴァナ皇后と約束をしたんです」
「なにか言われたのだと思っていた。もちろん、それは私から離れることだろう?」

 イヴァナ皇后と会ったあとの桜子の行動は、わかりすぎるくらいだった。黙っているように約束をさせられたはずで、桜子を問いただせば彼女が苦しむと、ディオンは見守るしかなかった。

 桜子はコクッと頷く。

「一ヵ月以内にここを出なければ、カリスタやザイダの命はない、と。でも、見せしめとしてカリスタが狙われてしまって……イアニスさま、ごめんなさい。私がもっと早く話をしていれば、カリスタを守ってあげられたのに……」
「なにをおっしゃるんですか。サクラさまは命をかけて、祖母を助けてくれたではありませんか」

 血みどろの戦いも起こるこの世界に育ったイアニスは、桜子の取った行動をすんなりと受け止められた。

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